独り相撲日本代表

取るに足らない戯れごと

松本人志になりたかった日

人には「向き」「不向き」というのはあるもので、初めてのアルバイトであるスポーツトレーナーをしてつくづくそう思いました。

 

 

以前であれば友達が「俺って〇〇に向いてないな」そんなのを聞くと"そんなのは努力不足であって、ただの甘えではないか"そう考えていましたが、単なる思い違いだったようです。少し前まで働いていたスポーツクラブがいわゆるブラック企業であり、時間外労働や休日出勤が当たり前、そういった環境でしたが、他のブラック企業と明らかに違う点がありました。

 

 

それは、「好印象を与えるために客との会話ではできるだけ笑いを起こさなければいけない」という掟。間違って吉本に入ってしまったのかと思っちゃいました、もっと言えば「すべらない話」を用意した上で接客しなければいけないという地獄。「ああ、自分が松本人志だったらこんなに苦労しないのに」と自身の口下手さをひどく恨みました。

 

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具体的にどういった状況ですべらない話をするのか、職場内に大きいスタジオルームがあり、私はそこでスタジオレッスンの講師として週に2回担当していました。大まかに

 

①レッスンが始まる15分前にスタジオを開けておく

②お客さんを招いた後にトレーニングで使う音源や器具を用意する

③トレーニングの大まかな流れを説明し時間が来たらトレーニング開始

 

という流れの中、準備諸々含めても10分前後は暇な時間があり、それまでは前にいるお客さんとたわいもない雑談をしていました。ある日のレッスンの前、上司に呼ばれて「お客さん集めた後とか暇な時間できるやろ?場を温める意味でもなんか小話でもしてよー、今回は俺見とったるから」そう言われたのです。あなたが見てくれたからってどうなるって言うんだ、教えてほしい。

 

今までこんな無理難題を押し付けられたことはありません。「ミッションインポッシブル」のトムクルーズでもサジを投げる案件でしょう。もしくはオーシャンズのメンバーでも達成できません。

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だって落語家とかお笑い芸人じゃないですから、その日のトレーニングメニューも考えなくてはいけないのに小話を用意しろというのですか、

 

その日は「最近見た変な夢」という話を、半ばお客さんの反応に怯えながら、半ば自分は世界で1番面白い人間だ、と言い聞かせながら話しました。

 

M-1グランプリの芸人の話ではありませんよ。

 

 

それまでは雑談って感じだったのが急に校長先生の朝礼のように1人で、マイクをオンにした状態で上司やお客さんの前で話す形式に、もはや落語家同然です。1人でずっと話し続けるスタイルなのでお客さんが反応してくれる事もなく、もちろんウケませんでした。お客さんも「あいつ何か急に話し出したぞ」「そんなんよりも早くトレーニングしてくれ」と言った感じで困惑気味、場はしらけ切っていました。私が一番困惑してたんですけどね、

 

 

レッスン終了後に上司に呼ばれ、「あんな感じあんな感じ、来週も期待してるで、」そうにこやかに彼は言い去り、私はこのスポーツクラブにイロモノ担当として採用されたのかなあ、と疑問に思いながら、来週の話を考えていました。計算すると週に2回、月に8回すべらない話をしなければいけない、そう考えると、今まで楽しくバイトをしていたのが嘘のように行きたくなくなりました。

 

 

その「条例」が出された2ヶ月後、スポーツトレーナーではなく、話のために面白いことばかりを考えようとする三流芸人へと成り下がった私は、アルバイトを退職しました。辛い作業ではありましたがトークのスキルは上がったと確信しており、絞りに絞り上げたその時の「すべらない話一覧」を律儀にメモに残してあります。

 

 

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次のアルバイトを探す際には募集要項に「すべらない話必須」と書かれているところは避けようと思います。

 

 

 

うかつにもバイト先にトレーニングシューズを忘れてきてしまい、また行かなくてはならないのです。また私は上司や同期にも「すべらない話」をする事になるのでしょうか。

 

 

 

その時にはお世辞でも良いので「すべらんなぁ〜」とは言って欲しいものです。